深大寺フィールドワーク
はじめに―世界新奈の役割
「百聞は一見に如かず」という言葉があります。百回聞くより一度自分の目で見たほうがよくわかる、という意味で、たぶん誰もが知っていることわざだと思います。
ただ、この言葉がどこから来たのかはあまり知られていない気がします。出典は中国の歴史書『漢書』で、もともとは前漢の趙充国という老将軍の言葉です。
ある時、辺境の異民族が反乱を起こし、皇帝が七十歳を超えた趙充国に「討伐にはどれくらいの兵がいるか、どう攻めるか」と策を尋ねました。普通ならその場で答えるところですが、趙充国はそうしませんでした。地図と報告だけで遠くから戦況を測るのは難しい、と言って、こう答えます。
百聞は一見に如かず。兵は隃(はるか)に度(はか)り難し。臣願わくは馳せて金城に至り、図(えが)きて方略を上(たてまつ)らん。
百回聞くより一度見るほうがよい、だから自分が現地まで駆けつけて、地図を引いてから策を申し上げたい、と。報告をいくら受けても、最後は自分の足で現地に立たないと本当のことは分からない。そういう話なんですね。
そして、これは私たちがやっていることそのものでもあります。
世界新奈というプロジェクトには、坂井新奈という一人の人間がどこに行って、何をして、何を食べたのか、その足跡を記録するという地味な役割があります。ライブやテレビでの姿は誰でも見られますが、にぃたんが「最近遊びに行った」と一言こぼした場所がどこなのかは、放っておくと誰の記憶にも残らないまま流れていってしまいます。
なので私たちは実際に現地に行きます。本人が見たであろう景色を自分の目で見て、座ったであろう席に座って、食べたであろうものを食べます。トークやSHOWROOMでの言葉をいくら集めても、結局は趙充国と同じで、自分の足で立ってみないと確かめられないことがあるからです。
今回その対象になったのが深大寺です。
フィールドワークに至るまで
出発点はほぼ手がかりのない2枚の写真
すべては2026年3月4日に始まります。
この日、坂井新奈と山口陽世のトークに、ほとんど同じ構図の「木の写真」が投稿されました^[1]^[3]。 にぃたんと陽世が一緒にどこかへ出かけたらしい、ということだけは分かります。ただ、写っているのは木と夜の暗がりだけで、場所を特定する手がかりはほとんどありませんでした。
唯一気になったのは、陽世側の写真の奥にぼんやり写る赤と黄色の光です。これが何なのかはこの時点では見当もつかず、デイリーヤマザキの看板だろうか、すき家だろうか、という程度の当てずっぽうしか出てきませんでした。
ここで少し内輪の話をすると、世界新奈にはOSINT部とフィールドワーク部があります。OSINT部は、トークやブログ、SNSといった公開されている情報を突き合わせて、ある事実を裏づける係です。今回のように写真から場所を割り出すのも、その仕事のひとつですね。一方のフィールドワーク部は、実際に現地へ足を運ぶ係ですが、正直なところ、固定のメンバーが居るわけでもなく、当日現地に行ける人全員がフィールドワーク部です。この話の中心になるのは、今回のフィールドワーク部の一員でありながら、OSINTの分析も引き受けているひとりのメンバーです。
この段階で動いていたのは、もっぱらOSINT部でした。手がかりとして握っていたのは、木の形と、赤と黄色の光の二つ。ただ、どちらもこの時点では正体がつかめず、結局は最後まで持ち越されることになります。
3月14日の鉛筆を持つにぃたん
次の手がかりは3月14日、山口陽世のトークに投稿された写真でした^[5]。 ある施設の中で、にぃたんが鉛筆を持って何かに書き込んでいます。
これもこの時点では「何かに書いている」以上のことは分かりませんでした。ただ、この一枚が後で決め手のひとつになります。
3月17日のSHOWROOMで出た新情報
風向きが変わったのは、3月17日のにぃたんの誕生日SHOWROOMです^[7]。にぃたんはこう話していました。
最近陽世さんと遊びにいかせていただいたんですけど、すごい楽しかったです。本当になんかすごく素で楽しめて、お祭りやってたんですけど、やっぱり良いなって思いました。私自然大好きなので楽しかったです。自然が好きなんですよねぇ。(何食べたか?)お蕎麦食べました!
ここで一気に情報が増えました。
- 3月4日にお祭りをやっている
- 蕎麦を食べた
- 自然が豊かな場所である
「お祭り」「蕎麦」「自然」、この3つを満たす場所として、候補は深大寺に絞られました。深大寺は蕎麦の名所として有名ですね。
らくやきという決め手
深大寺について調べていくと、深大寺窯というお店の「らくやき」という絵付け体験のコースが人気で、下書きに鉛筆を使うことが分かりました。3月14日の、鉛筆を持って何かに書き込んでいる写真とちょうど整合します。
さらに、そのお店の公式Instagramに上がっていた店内の写真と陽世の画像を見比べると、床のタイルの模様まで一致しました^[8]。
ここまでで、「深大寺だろう」という見当はかなりついていました。ただ、見当と確定は別ものです。それに、そもそもの出発点だった木の写真にいたっては、この時点でも場所がまったく割れていませんでした。あとは現地に行って、自分の目で確かめるしかありません。
当日の様子
朝10時ごろ、調布駅に集合して、バスで深大寺に向かいました。
蕎麦
まず向かったのはらくやきのお店です。ここで整理券をもらいました。だいたい10時40分くらいだったと思います。この時点で、OSINT部が陽世の撮った写真の場所におおよその目星をつけてくれていました。
らくやきの時間まで間があったので、先に蕎麦を食べることにしました。
ただ蕎麦屋がとにかく多いんですね。「にぃたんたちはどこで食べたんだろう」「らくやきのお店から近い店じゃないか」「陽世がエスコートするとしたらどの店を選ぶか」といった議論をしましたが、当然そんなことで分かるはずもなく、結局は普通に空いていたお店に入りました。
窓から見える景色がとてもきれいで、これだけでも来た甲斐があったと思いました。

参拝
そのあとは参拝です。例の「木の写真」の場所を探しながら歩きました。おみくじも引きました。
団子
らくやきの時間まで少し余裕があったので、団子を食べて時間をつぶしました。団子屋も結構多かったので、おそらくにぃたんたちも食べているだろうという計算で食べたというのもあります。

らくやき
そしてらくやきの時間になりました。
らくやきは、すでにいろいろな形に成形された素焼きの生地が並んでいて、その中から好きなものを選んで色を塗り、焼いてもらう、という体験です。動物をかたどった生地も多く、その中にはハムスターもありました。にぃたんが何を選んだのかは断定できませんが、陽世の写真を見るとハムスターのような足が写っていたので、おそらくそれを選んだのだと思います。ただ、それにしては少し大きい気もするので、確証はありません。お店の人いわく、生地はどこかから仕入れているもので、種類も不定期に少しずつ変わるそうです。
席にまつわる出来事も書いておきます。
この日は5人で行っていて、最初は3人と2人の2テーブルに分かれて案内されました。私は3人のほうのテーブルで、陽世の写真から「にぃたんたちが座っていたのはここだろう」と目星をつけていた席からは、かなり離れた場所でした。ところが、その2人のほうのテーブルこそ、目星をつけていたまさにその席でした。そこに座っていた2人のうちの1人が気を利かせて、店員さんに「席を変わってもいいですか」と聞いてくれて、私がその席、つまりにぃたんが座っていた席に座れることになりました。
途中、店員さんが「3人のテーブルがあと2人座れるようになったので移動しますか」と声をかけてくれましたが、「ここが良いので大丈夫です」と断りました。
陽世が撮った真剣な表情のにぃたんの写真^[5]と、自分の目の前の景色を見比べて、ここで間違いないと確信しました。

色を塗って、20分ほど焼いてもらって、らくやきは完成しました。みんなそれぞれ思い思いのものを作っていました。

バラフェスタ
その後は、神代植物公園で「バラフェスタ」が開催されているということで、そちらに向かうことにしました。これはにぃたんたちが訪れた当時はやっていなかったイベントですが、もし彼女たちがこの時期に来ていたらきっと行っていたと思ったからです。
バラソフトを食べたり、バラを見たりしました。温室の植物園のようなところも見て回りました。
そのあとは日陰の芝生で少し休んで、そろそろ帰ろうという流れになりました。
帰り際の発見
帰ろうとしたところで、例の「木の写真」の場所がまだ特定できていないことを思い出しました。私たちは帰り道を歩きながらそれを探しました。
最終的にこの場所を突き止めたのも、OSINT部でした。ずっと手元の情報を突き合わせてきた分析の目が、この日は現地を歩きながら、最後まで割れ残っていた木の写真の場所を解いた格好です。その思考過程を、当人の言葉で残しておきます。
まず、写真が夜に撮られていたことから、昼間に訪れていた深大寺やらくやき体験の場所の近くとは限らず、別の場所で撮影された可能性があると考えた。そこで、昼頃に調布駅で集合し、深大寺で過ごした後、夜に調布駅へ戻って解散前に写真を撮ったという1日の流れを仮定し、その行動ルートをたどることから調査を始めた。
深大寺周辺では、写真に写っていた「木の奥に赤と黄色の光が見える場所」は見つからなかったため、調布駅周辺に絞って探索した。木の前で撮影していることから、解散前に座って話せるようなベンチのある場所ではないかと考え、「木とベンチがセットになっている場所」を探したところ、候補をほぼ1か所まで絞ることができた。
その後は、写真の構図から背景の光の正体を検討した。昼間の調査ではネオンは確認できなかったものの、周囲の建物の形状を手がかりに、赤いランプと建物内部の黄色い照明が夜間に重なって見えているのではないかと推測した。実際にその建物の夜の写真を確認したところ、写真と同じ赤と黄色の光が見つかり、さらに元画像が左右反転していることを考慮して照合した結果、撮影場所を特定することができた。

ずっと正体の分からなかった赤と黄色の光が、最後の最後でつながった瞬間でした。見つけたときは、その日いちばん盛り上がりました。
どれだけ手元の情報を突き合わせても割れなかった場所が、実際に足を運んで歩いてみると見つかる。現地に行かないと分からないことは、確かにあるのだと実感した瞬間でした。冒頭に書いた「百聞は一見に如かず」とは、まさにこういうことなのだと思います。
おわりに―世界新奈が残すもの、守るもの
こうして、トークやブログから分かる範囲で、にぃたんと陽世がたどった一日を、私たちも自分の足でなぞってみました。もちろん、二人が実際に過ごした一日をそっくり再現できたわけではありません。あくまで公開されている情報から拾えたぶんを、つなぎ合わせただけです。
これは謎解きを自慢したくてやっていることではありません。世界新奈というプロジェクトの存在意義は、坂井新奈に関する情報を、できるだけ長くこの世界に残すことです。ただ、ここで残したいのは場所そのものというより、その場所でにぃたんが楽しい一日を過ごした、という事実のほうだと思っています。
にぃたんが「すごく素で楽しめた」と話していた一日も、放っておけば、いつか誰の記憶にも残らないまま流れていってしまいます。だからこそ、わざわざ現地まで足を運んで、確かにここに彼女がいて、確かに楽しい一日があったということを、その場所ごと、できるだけ長く残しておきたかった。それだけです。
同時に、こうした記録には、ちょっとした注意喚起の意味もあると思っています。今回のように、背景にほとんど何も写っていない一枚の写真でも、木の形や、隅にわずかに写った光といった断片を突き合わせていくと、場所はここまで絞り込めてしまいます。公開されている情報がほんの少しあるだけで、その気になれば場所は分かってしまう。これは坂井新奈に限った話ではなく、誰にとっても頭の片隅に置いておいて損のないことだと思います。
そのうえで、はっきり書いておきたいことがあります。私たちが記録しているのは、あくまで本人たちが自分から公にした「過去に訪れた場所」だけです。二人の私生活や、日々の生活圏に立ち入るつもりは一切ありません。それを詮索したり、生活の場に干渉したりすることは決してしません。ここに残しているのは、にぃたんが楽しかったと話してくれた一日の足跡であって、それ以上のものではありません。
そしてこれは、私個人の心がけというより、世界新奈がポリシーとして掲げていることでもあります。「本人や関係者に危害が及ぶ可能性のある情報は公開しない」というのがプロジェクトの原則で、この記録もその範囲の中に収めています。
訪れた個々の場所については、出来事のほうに [[山口陽世と深大寺]] としてまとめたので、そちらを参照してください。
